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Bierg 2 : glacia / DJ TOTTO

氷に閉ざされた大地。

広く海を閉ざし、全てをその胸に隠して山は静かに眠る。

夢を見るは少女の願い。

望んだあらゆるを見せ、祈った光を優しく包み込んだ。

空を映し、木々を揺らし、土を掘っては水を浴びせた。

少女は言う。

もう随分と寝たと。

山は答える。

まだ夜明けには早いと。

そうなのかな、と少女は頷く。

そうして再び微睡み瞳に影を落とした。

何百年何千年と繰り返したやり取り。

無限にも続くと思われた再生。

そこにいつしか綻びが生じることを、彼女たちは分かっていた。

だから少女は、山は驚かなかった。

突如訪れた目覚めの時に。

最初に少女をくすぐったのは、甘い花の香り。

続いて雪の混じる風の渦。

そして血の匂い。

生命の途絶えたこの世界で、それらは生き生きと空を舞う。

早咲きの桜。

柔雪を持ち上げる新芽。

純白に混じる色彩。

まだまだこの世界は冬の真っただ中。

なのに空気は春が来たと告げている。

そんな矛盾のような摂理。

少女にとってこれは単なる巡りに過ぎない。

この春もいずれは消えゆき、夏に呑まれ秋が貪りそしてまた冬が腰を据える。

だから、少女は起きようと思った。

起きて見に行こうと。

閉ざされた大地を開いたモノが一体何なのかを。

一人分の足跡を刻みながら進んだ先に、件の扉はあった。

扉を開けた人間は既に息絶え、亡骸に残されているのは僅かな感情。

会いたいよ。

少女は自然とそう、小さく開いた口から零した。

凍てついた唇がパキパキと鳴る。

そして一歩、扉の向こうへ立ち、優しく髪を撫でる山を振り返って微笑んだ。

「いってきます」

静かに閉じる扉のこちら側。

氷は溶けることを拒み続け、花は咲かんともがき続ける。

少女を見送った大地は僅かな夢の中へと身を委ねることにした。

待つことには慣れている。

たった数年ぐらいなんてことはない。

それでも「ようやく会えた」と心は高ぶった。

残された感情は少女を動かし、少女はその感情に溺れる。

一度も会ったことのない人間の顔を眺めては頬を緩ませた。

魔物とはなんだったか。

少女は人々の言葉に耳を傾けた。

この世のモノではない獣だろうか。

精神状態の乱れからくる幻だろうか。

きっと答えはない。

それが獣に見えたなら、彼女にとっては獣だったのだろう。

それが乱れだったのなら、彼にとっては乱れだったのだろう。

少女は少年を微笑み交じりに見つめた。

獣など見えず、心乱れることもなかった少年は、静かに目を閉じ祈りを捧げる。

祈りの矛先に一体誰が、何がいるのかもわからずに。

彼に少女は見えるだろうか。

見えたところでどうしようもないことだが、少女は少し気になった。

いつまでもこの世界に居続けるわけにはいかない。

扉の向こうでは永遠の地が少女の帰りを待っている。

かの世界が向かう先へと進むために、もしくは留まるために。

少女とともに向かうために。

少しだけ少年に向けて手を振って見せる。

こちらを見ていたような気がしたが、そんなことはなかったようだ。

間もなく背中を少女に見せて少年はその場を去った。

少女は静かに扉に手をかける。

この胸の中にある不思議なもやもやをお土産に。

遠くで雪解けの音が聞こえた。

それをBGMにしながら冬が眠たそうに苦笑を交じえて答える。

「おやすみなさい、待ってるよ」